のんのんの無駄話

言いたいことを言いたいだけ言いたい

合唱部のコーチの話(評価される演奏、良い演奏とは何か?)

こんにちは、のんのんです。

2017.8年あたりから、中・高の合唱部、大学のサークルにコーチとして呼ばれることが多くなりました。その活動や研究を通して考えたことがそろそろまとめられそうな感じになってきたので、今回は、コンクールで結果を出したい合唱部・サークル、特にその指揮者(顧問)に向けた、コンクールで継続的に結果を出すために大事なことを書きたいと思います。

もちろん、コンクールで結果を出すことだけが全てではありません。ただ、今回は書きやすくするためにそこにスポットを当ててお話しさせてもらいます。

 

0.はじめに

コーチという仕事の都合上、指揮者の代わりに練習を見たり、練習の中でコメントをしていくみたいな関わり方が多くなります。つまり、基本的には私と生徒の間でコミュニケーションを取るのですが、どっちかというと生徒より指揮者に言いたいことがたくさんあります。ただ、基本的にコーチの仕事は指揮者を指導することではなく合唱団を指導することですので、あれこれ言うのは控えるようにしています。一方で、部活動・サークルという特殊な形態の合唱団においては、指揮者の成長が結果に直結します。そのため、冒頭にもある通り、今回は普段から言いたくてたまらない、指揮者が気をつけたほうが良いことを書きます。

ここ数年いろんな学校の合唱部やサークルと音楽をさせてもらっていますが、強豪には共通してできていること、言い換えれば、思うような結果をなかなか出せていない学校には共通してできていないことがあるように感じています。これらをお伝えできれば幸いです。

 

1. 最優先ですべきこと

コンクールとかに関わらず、指揮者がまず絶対にやっておかなければいけないこと、それは、

研究をして、耳を鍛える

ことです。

例えば、コンクールの目的が「全国大会出場」なのであれば、全国大会に出場できる演奏の水準を理解しておく必要があります。逆にいうと、コンクールがまともに機能している場合、全国大会の水準の演奏のイメージ・ビジョンが指揮者にない団体が、たまたま以外で全国大会に行くのは不可能だと断言できます。研究なんて偉そうに書きましたが、やり方は単純で、

とにかく演奏を聴きまくって考えまくる

のが第一歩だと思います。コーチ先の生徒のみんなにもよく言うんですが、演奏を聴く習慣をつけた方が良いです。指揮者は特に。よっぽどのことがない限り、耳以上に演奏が育つことはまずありえません。研究をして耳を鍛えることが最優先です。指揮者がこれを怠ったらどんなに練習をしても、どんなにいい生徒たちでも、結果は出ないと思います。時間の許す限りとにかく一生懸命聴いて、必死になって研究しましょう。コンクールみたいに評価される場で結果を出すためには、目標とする演奏の水準をイメージし、理解し、そこにたどり着くために何が必要かを見つけ出すこと、この壁をまずは超えなくてはなりません。

 

2. 強豪校の演奏の技術水準

こないだの全国大会もそうでしたが、金賞校上位3校とそれ以外には技術的な差が明らかにありました。ここ数年そうですし、これからしばらくはそうなると思います。ここでは僕の経験や研究から考えた、全国大会常連や全国大会金賞校ができていて、中堅レベルの学校ができていない技術、言い換えると、あと一歩成長して全国大会に出るために必要であると考えられる要素の話をします。1の最後で言った、「たどり着くために何が必要か」を、全国大会を例に説明するということになります。

僕は、現段階では以下の4つが強豪になるために必要だと考えています。指揮者には、以下4つを合唱団に伝えて磨いていけるほどに理解できていることが必要であると思っています。

①基礎技術としての「レガート」を身につける

②いい声よりもいい響きを追求する

③楽譜は絶対という癖をつける

④表現をしようとする

一つずつ説明します。

①基礎技術としての「レガート」を身につける

発想記号でたまに見る"legato"ですが、ここで言うレガートは表現技法ではなく、歌唱の基礎技術としてのレガートを指しています。結構疎かにしている団体を多く見かけました。レガートは基礎中の基礎、歌唱の一つの形態である合唱の根本にある大事な概念ですので、徹底した方がいいです。上手いところは「レガート」という言葉をあえて使わなくてもできていたりします。息の流れとかよく言ったりしてます。

「身につける」とは書きましたが、どちらかというと身につけるだけではなく、

「基礎技術としてのレガート」という概念を知り、レガートは基本的にいつでもやる必要があると心得る

ことの方が大事です。レガートは徹底、とにかくレガートです。

 

②いい声よりもいい響きを追求する

(ここの項は書き振りをとても悩みました。最終的に訳のわからない感じになっていたら本当に申し訳ないです。伝われば良いのですが不安です)

いい声というのはどの団も意識して練習しています。ただ、誤解を恐れずにいうと、いい声はそこまでいらないです。合唱の音の到達点は、基本的にはいいハーモニーを作ることです。いいハーモニーを作るためにはいい響きが重要で、いい響きを作るためにいい声が必要になることが多いという考え方が正しいです。つまり、意識すべきはいい響きの方です(別にいいハーモニーの方でもいいです)。なんかすげえ当たり前のことを言ってるように感じられると思うのですが、これを意識して、練習でしっかりと響きとハーモニーを磨こうとしている団はめちゃくちゃ少なかったです。ほとんどの団はいい声だけを追求しすぎている結果、ちゃんとハモっていないことが多いです。特に高校生や大学生なんて声が出るのが楽しくて仕方がない時期ですからマジで危険です。よく「声を飛ばそう」とか教わると思うのですが、誤解を招くのであまりいい表現ではないと思います。声は出すとか飛ばすのではなく、響かせる・響きを広げるという考えの方がおそらく良いです。そして、その響きをみんなで追求することで良きハーモニーが生まれます。いい声を出すことだけではなく、いい響きをみんなで作って、ハーモニーを生む感覚を掴むと(もっというと楽しめるようになると)、合唱団のレベルはかなり上がります。なんとなくハモってる団はこの世にたくさんあるんですけど、響きを追求してしっかりハモってる団はそんなにないです。

ハウツー的になりますが、アンサンブル(全体合わせ)練習は、可能な限り響きを追求する時間をかけられると良いです。声は個人の問題ですが、響きとハーモニーは全体の問題ですので、アンサンブル練習で磨くのが最も効率が良いためです。全体の問題なので本当にシビアな話になります。こないだの全国大会でも「響きとハーモニーをしっかり追求しているな」と思える団は少なかったので、相当難しいのだと思います。特に混声は構造上かなり大変ですので、気合い入れて頑張ってください。僕もどうやるかは研究の途上で、日々試行錯誤しています。

いい声もそこそこ必要だけど、いい響きを追求するところ、いいハーモニーを作るところまで意識することが大事です。

 

③楽譜は絶対という癖をつける

これはコーチの仕事を始めてから知って驚いたのですが、楽譜通りに歌うことへのこだわりが少ない団体がほとんどでした。マジでびっくりしました。おくびにも出しませんでしたが、何回かキレかけました。基本的に楽譜は絶対です。楽譜に書いていることを全部やるのは最低限だと認識した方がいいと思います。そして、指揮者が思っているよりも歌い手は楽譜を読んでないし、楽譜通りに歌ってないです。仮に楽譜をしっかり読んでその通り歌っていたとしても、楽譜通り聴こえているかは別の問題です。多くの合唱団は、楽譜通りに歌う練習にもっと時間をかけた方が良いです。ゴールは楽譜通りに聞こえることです。テンポとアーティキュレーションとかについてはやりやすいんですが、強弱を楽譜通りやるのは思ってるより難しいので、気を付けておくといいと思います。

 

④表現をしようとする

③とほぼ同じことを言うことになるかもしれないのですが、第一歩として、楽譜に書いてあることに意味づけをする作業をすると良いです。何も考えずにただ楽譜通りに歌うというのは結構苦労するうえにメンタルが削られるので、「なぜここでpなんだろう?」「なぜこの歌詞がこういう和音なんだろう?」とか、楽譜に書いてあることを歌詞を含めて解釈し、自分たちなりのロジックを作っておく作業が大切です。また、この作業を怠ると、いくら楽譜通りに歌っていたとしても表現の統一性が崩れてしまい、チグハグな演奏になってしまう可能性が高いです。経験論となり誠に申し訳ないのですが、特別に変なことをしなくても、楽譜に書いていることを解釈し、自分たちなりに意味づけをして、楽譜通りに歌う。これだけで十分に豊かな表現をすることができますし、十分に自分達らしさが出せます。楽譜に書いていないことを一切やらなかったとしても、です。コンクールに限定するとそこから先は正直やってもやらなくてもという感じです。

表現、すなわち解釈と意味づけのコツは「印象から入る」ことです。表現のための印象からのアプローチメソッドは僕が去年あたりに思いついたもので超自信があるのですが、今回の本題とズレるので細かいところはいつか気が向いたら書きます。

楽譜通りの演奏をするために、楽譜に書いてあることを解釈し、意味づけをする。そうすることによって演奏に統一性が生まれますし、楽譜通りやっているだけなのに自分達らしさを出すことができると思っています。

 

以上の4つをできている(磨いている)ことが、コンクールで継続して結果を出している強豪に共通していることだと考えています。コンクール強豪になるために求められる技術水準です。そして、繰り返しますが、これらを指揮者が理解していることがまず求められます。

おそらく、現段階ではこの4つのことについてちんぷんかんぷんだったり、なんとなくわかるけどいまいち掴みきれていないという方もいらっしゃると思うんですが、1で言ったように、研究をして耳を鍛えれば、「こういうことを言っていたのか」とわかるようになると思ってます。とりあえず演奏を聴いて研究する際に、以上4つに気をつけてみてください。それだけでだいぶ見えてくる(聞こえてくる)ものがあるはずです。そして、それが第一歩です。指揮者が理解して感覚を掴むことができていないと、歌い手に伝えて磨いていくことは不可能です。

書いてみて思いましたが、言っていることはなんら新しいことではなく、本当に普通のことです。その一方で、実践する、こだわり続けることはかなり難しいと思っています。そのため、指揮者がこれら4つのことをちゃんと理解して、自分のものとなるまで研究することが重要であると思います。

 

3. 練習のテクニック

ここからはおまけ的内容になりますが、練習をどう進めるとよいか、練習時の注意点について、僕の考えをご紹介します。ここまでと同様に、ここ数年のコーチの経験からのお話になります。

・無駄な練習をしないように心がける

当たり前なんですけどこれが全てです。無駄な練習をすればするほど結果は遠ざかります。ここでいう「無駄な練習」とは、「なぜその練習を今やっているか?」を明確に説明できないということです。求められる演奏の水準をイメージし、そこにたどり着くビジョンを作れているのであれば、自ずと必要な練習は見えてくるはずです。逆にいうとイメージやビジョンを作らないうちに練習しても、指揮者のそのときの気分とか気まぐれに生徒を付き合わせているだけになるので良くないです。

 

・一気に色々要求しない

人間の集中力は続かないしキャパシティはそこまで大きくないです。例えば「ここのクレシェンドをしっかりやりましょう」と言うなら、クレシェンドの出来だけに集中する(集中してもらう)べきです。クレシェンドをちゃんとやる練習をしているはずなのに、音程がどうとか発語がどうとか果ては別のところの指摘をしたりする指揮者の人を沢山みてきました。まず指摘したことができるようになることを最優先にし、他のことは後回し、最優先事項ができるようになってから進みましょう。その時気になったダメなところを指摘しまくる練習は指揮者のオナニーに歌い手を付き合わせているだけです。気になることがあっても要求事項じゃないならぐっと我慢することも大事だと思います。時間は限られているので、優先順位をしっかり考えて決める必要があります。

 

・良いところはちゃんと良いと言う

何かを指摘して、できていたらできている、上手いなら上手いと伝えるのは、練習においてとても大切です。特に、明確な結果がその場で出ない営みにおいて、その重要性はかなり上がります。しかし、ちゃんとやっている指揮者はかなり少ないように感じています。ダメなところを指摘しているだけでは「ダメじゃない」演奏にしかならないと僕は思います。「いい」演奏をするなら、歌い手になにが「いい」のかをちゃんと伝えて、教えていかなければいけませんし、「いい」を積み重ねていく必要があります。

 

さて、長々と書きましたが以上になります。指揮者に向けて書いた内容ですが、もちろん歌い手側も意識しておくといいことでもあります。部活動・サークルという合唱団の仕組み上、指揮者が身につけた方が手っ取り早いってだけで、歌い手が全員意識できているなら問題ありません。一般の団体とかでそういう素晴らしい団体はいくつかあります。

最後に言い訳みたいなことを言うのもアレなのですが、僕も研究の途上なので、そもそも内容が間違っていたり、抜け漏れがあったり、伝え方をもっと良くできたりするんじゃないかといつも不安です。もしよかったらコメントとかで皆さんの考えを教えてくれたら嬉しいです。反対意見やご指摘は特に大歓迎です。一緒に考えましょう。

そして、ここまでお読みくださったみなさんならとっくに気づいておられると思うのですが、コンクールで勝てる演奏の技術水準は、普通のいい演奏の技術水準とほぼ同じです。コンクールのための取り組みと、いい音楽のための取り組みは一切矛盾しないと僕は考えています。

また、学生のコンクールはおおむねちゃんと機能していますので、参加団体(の指揮者)がしっかり研究して臨むことで、全体のレベルを上げていくことができると考えています。

 

久しぶりに自分の考えをまとめるいいきっかけになりました。この記事を読んで興味が出たら僕をコーチに呼んでください(宣伝)。

それでは。